約 3,753,562 件
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3592.html
【種別】 氏族名 【初出】 とある科学の一方通行1巻 【元ネタ】 Wikipedia-ラビ Wikipedia-ゴーレム 【解説】 ユダヤ教徒を源流とする魔術師の一族。 「完全なるゴレム」、すなわち完全なる魂魄と完全なる身体を持つ「神」を作ることを代々の目的とする。薔薇渓谷家とも。 現当主は23代目のエステル=ローゼンタール。 元はラビ(ユダヤ教の学者)の一派でしかなかったが、始祖オベドがゴレムの知性を高めるために死体へ疑似魂魄を植え付けるという技術を編み出した。 人の脳を使うことで知性は劇的に高まったものの、異端とされてしまい、400年ほど前に東洋へ追放された。 その後4代目のイサクが道教の跳屍術を取り込んで独自の死霊術を開拓し、 それをベースに5代目のネイサンが強力な擬似魂魄「ナンバーズの悪霊」を生みだし、現在に至る。 【登場した一族】 オベド=ローゼンタール(未編集)(初代) イサク=ローゼンタール(4代) ネイサン=ローゼンタール(5代) エステル=ローゼンタール(23代:現当主) 【余談】 とあるシリーズの魔術師は自分自身の目的の為に生きる者がほとんどのため、 ローゼンタール家のように先祖代々一つの目的を受け継ぎ達成しようとする魔術師達はかなり珍しい。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1482.html
本日の実験を終えた垣根帝督は、木原研究所内にある資料室を訪れていた。 「やっぱり、研究資料と一緒に依頼の資料も放っぽってやがる。シュレッダーにもかけてねぇし。相変わらず、研究以外はズボラな野郎だ」 呟きつつ、垣根は姫神秋沙に関する資料を紙束の見つけ出す。 ざっと目を通して確認した後、それを小さく折りたたんでジーンズのポケットに入れたところで、突然資料室の扉が開け放たれた。 「こんな所にいたのかい」 言いながら入ってきたのは木原幻生その人。 「どうも、明日の依頼の資料を確認しようと思いまして」 努めて冷静に言いながら、垣根は部屋の隅に無造作に置かれている、明日行う予定の依頼についての資料の束を手に取る。 「……ふふん。熱心でいいことだ。ところでね、帝督くん。今日の実験の結果が出たんだけどね、見てくれるかな」 特に気にした様子もなく、垣根は資料室に設けられたら四角い机に数枚のコピー用紙を広げた。 「わかるよね」 「…………」 資料を覗いた瞬間、幻生の言わんとしていることは分かっていたが、 「……何が、ですか?」 垣根ははぐらかすような答えを返す。 「やれやれ、ここの数値だよ。一月に一回行っている検査実験。それの、ここ半年間の結果をグラフ化したものだ」 幻生は白衣の胸ポケットからボールペンを取り出すと、わざとらしく六つの棒グラフの天辺を繋ながら言った。 「段々上昇率が下がってきている。そして先月と今月じゃ、もうほとんど横這いだ」 「…………」 「天井が見えてきてしまったのかな。天上に届く前に、ね」 トントン、とボールペンの先で用紙を叩きながら、一体何がおもしろいのか、くつくつ、と声を押し殺して笑う幻生。 〈歴然。今のは『天井』と『天上』の音が同じことを利用した駄洒落と呼ばれる技法だ〉 (……いいからテメェは黙っててくれねぇか) 頭の中に響く声に釘を刺し、垣根は幻生に向き直る。 「確かに実験の結果が著しく良くなっている訳ではありませんが、悪くなっている訳でもありません。『未元物質』の能力は衰えていない、だったらまだ研究価値はあるでしょう。あなた方は、未だに『未元物質』が何であるか、その取っ掛かりすら掴めてはいないんですから」 文句を言うなら、まずは『未元物質』を解明してからにしろ。 その言い分は、今まで『未元物質』を研究してきた研究者たちが、今回のように垣根を手放そうとする度、『次の雇い主』を探すため、或いは移転のための時間稼ぎに言ってきたことだ。 こう言えば、その言葉を真に受けて――或いはその言葉が薄っぺらい自尊心に触れて、『未元物質』の研究を引き伸ばすことがあったのだ。 だが、 「何度も言うようだけど、私の興味は絶対能力、ただそれのみ。だから君の『未元物質』という能力それ自体には何の興味もないし――突き詰めてしまえば君が絶対能力者にさえなってくれれば、『未元物質』の実態を解明できなくとも構わない」 幻生が、気味の悪い笑みを浮かべる。 「そして今の君には、もう絶対能力者への進化の兆しが全く見られない。これは、新しい可能性に研究を移すべきかもしれないね」 「どういう……」 「新しい能力者を開発した方がいいかもしれないってことだよ。……あぁ、そういえば。姫垣くんは、能力開発していないんだっけ?」 「――――!」 ドガンッ、と大きな音を立てて。 机が真っ二つに弾けた。 「……それは、契約違反です。木原幻生さん」 幻生を睨みつけて、一言一言区切るように垣根が告げる。 「分かっているよ。流石に全く未知の可能性と現超能力者とでは、後者の方に天秤が傾かざるを得ない。――現段階では、ね。君にはもうしばらく付き合ってもらうよ。垣根帝督くん」 悪びれた様子もなく、飄々と言ってのける幻生に、 「…………失礼します」 垣根はそれだけ答えると、幻生の横をすり抜けて部屋を出て行った。 〈そちらにも、困難はあるようだな〉 木原研究所を出てしばらくしてから、頭の中からアウレオルスの声が響いてきた。 (テメェのに比べれば大したことじゃねぇ。禁書目録に例えるなら、まだヒメは『首輪』を嵌められる前の状態だ。何とでも、護り様がある) 半ば自身に言い聞かせるような言葉。 それすらもアウレオルスには伝わっているであろうことを知っていて、しかしだからこそ垣根はどこか安心した心地がした。 (俺の問題は俺が解決する。もとより超能力に関わりのねぇテメェには関係のない話だ。それより今はテメェの用件だろ) 心中で語りかけながら、垣根は先ほど資料室から掠めてきた姫神秋沙の資料を広げる。 (取り敢えず、こいつが生活してる霧ヶ丘女学院の寮の部屋を訪ねてみる。上手くいけばいきなり会えるかもだ) しかし、物事はそうそう上手くは運ばない。 「た、退学したってどういうことだよ!?」 「今朝方、姫神秋沙の所持するレベル4『吸血殺し』の能力が失われたとの報告を本人から受けました。そのため、姫神秋沙を退学処分にし、本学の学生名簿より抹消、それに伴い寮も引き払って頂きました」 一体どこに不明な点があるのか、とでも言うような事務員の視線にイライラとしながら、垣根はアウレオルスに問いかける。 (どういうことだ、オイ。能力がなくなったって……) 〈おそらく『私』が『歩く協会』の機構を応用して姫神秋沙の能力を封じたのであろう。禁書目録救出の暁にはそのように処置する契約になっていたからな。しかし、憮然。学園都市では能力を失っただけで退学処分になるのか?〉 (あぁ、クソ食らえなシステムだろ。もっとも、それもエリート校に限った話だがな) 「それで、姫神さんはその後どちらに?」 心中の会話とは180度違う態度で事務員に質問する垣根。 「本日付けで園の方に転属になっています」 そう言って、事務員は学園都市内にあるとある施設のパンフレットを提示した。 所謂、置き去りと呼ばれる子供たちが集められた場所である。 (そういや姫神秋沙は孤児だったな……) 「分かりました、どうもありがとうございます」 丁寧に礼をしてパンフレットを仕舞うと、垣根は即座に回れ右をして道を戻る。 (ま、これで次の手掛かりは掴めた。まだ糸は切れてねぇさ) ところが、悪いことと言うのは、なかなかどうして続けざまに訪れるものである。 「……まだ来ていない、と」 「えぇ、午前中には学院を出たらしいのですが……まだ……」 困った顔で対応する施設の保育士に、垣根は張り付いていると言うより凍りついていると言った方が相応しいような笑顔を向けて言う。 「何か心当たりとか……」 「そう言われましても、こちらはまだ一度も直接顔を合わせたことすらありませんし……」 「……そうですか。ありがとうございました」 踵を返し、施設を後にする垣根。 (どーすんだぁオイどーすんだよコルァ! 姫神秋沙はどこで油売ってんだ道草喰ってんだ!) 〈ふむ。おそらく学院を出たものの、施設に行くのが何となく嫌になってそのままそこらを放浪しているのだろう〉 そういう癖のある女だった、とあっけからんと言うアウレオルスに頭を抱えつつ、現状を打開しようと質問を重ねる。 (姫神の行きそうなところに心当たりは……) 〈皆無だ〉 (……だろうな。っつか、じゃあそれこそ禁書目録の方なんてどうするつもりなんだ? 手がかりがないどころか、ひょっとするとイギリス清教に連れ帰られちまって、もう学園都市にはいねぇかもしれねぇぞ?) 言い忘れてたが俺ら能力者はそう簡単に外には出られねぇんだよ、と言う垣根に、アウレオルスはやはり落ち着いた様子で返す。 〈それはないな。私が『どの段階まで』禁書目録を救出したにしろ……『首輪』が外れたこと、魔道書についての知識がなくなったことをイギリス清教が自ら公言することはないであろう。そしてそうである限り、禁書目録は他の魔術協会にとって忌避すべき脅威であり、かつ格好の獲物でもある。そんな風に危険がいくらでも寄ってくる禁書目録だ。イギリス清教は彼女を学園都市から出すまい。ここは、魔術サイドにとっての中立地帯であるからな〉 (……だが、どの道学園都市のどこにいるかは分からないんだろ。つーか、そもそも発信機とか付けてねぇのかよ) 〈発信機……そうか、そうだったな〉 はっ、としたようにアウレオルスが声を上げる。 (? 何かあるのか?) 期待を込めた垣根の声に、アウレオルスが自慢げに答える。 〈当然。私をあまり甘く見ないことだな。三沢塾へ行け。鍵はそこにある〉 (お、おぉ分かったぜ!) だがしかし、二度あることは三度あるとはよく言ったものである。 「……んで、これが何だってんだ?」 垣根はアウレオルスに指示された三沢塾校長室(当然不法侵入した)に置かれた机のとある引き出しから、ビニルに入った二種類の髪の毛を取り出した。 一方は黒、もう一方は銀色で、どちらも随分長い。 〈姫神秋沙と禁書目録の頭髪だ〉 (そういう趣味が……) 〈否。魔術とは便利なものでな。持ち物からその持ち主の居場所を特定する術式があるのだ。それを使えば、二人の位置などすぐに分かる。思い知ったか、これが錬金術師・アウレオルス=イザードだ〉 (…………あー) 垣根は脳内で誇らしげに騒ぐアウレオルスに、ビニル袋を揺らしながら問う。 (――んで、誰がその魔術を使うんだ?) 〈? 明然。私に決まっているであろう〉 (ほぅ、俺の脳味噌に寄生してるテメェが、どうやって魔術を使うって?) 〈…………………………〉 (確か超能力者の脳味噌じゃ魔術は使えねぇんだよな。三沢塾の学生は再生出来たからいいが俺はそうはいかねぇし、俺の脳がダメージを受けた結果テメェが消滅するっていうシナリオも有り得るぜ?) 〈………………………呆然。そういえばそうだったな〉 目を閉じれば、そこには脂汗を滝のように流しているアウレオルスの姿がありありと見えた。 〈だ、だが! そうだ! 禁書目録の『自動書記』なら、能力開発を受けていない人間に代わりに魔術を行わせることができ――〉 「だぁからその禁書目録を探してんだろうがこのスカシイケメンがぁぁぁぁぁ!!!!」 声に出して叫びながら、垣根は脳内でアウレオルスに向かって右ストレートの突っ込みを思いっきりお見舞いした。 (あー、もう止めよっかなー! 手伝ってやるの止めよっかなー!) 〈やれやれ、最近の若者はすぐに飽きただの何だのと言って物事を放り出す。嘆かわしいことだ〉 (誰のせいだと思ってるんだ、アウレオルスさんじゅうはっさい?) 〈……貴様、今の思考を間違っても漢字変換するなよ〉 垣根帝督は無駄足を踏んだとばかりにさっさと三沢塾を離れ、第七学区を放浪していた。 しかし今回ばかりは手掛かりも何もなく、本当にあてもなく彷徨っているだけだ。 「こんなんじゃどう考えたって見つかりゃしねーもんな」 姫神秋沙の資料を広げ、声に出して溜め息を吐く垣根。 相変わらず頭の中には涼しい声が響いており、それが垣根のイライラを一層高めている。 アウレオルスの思考は全て垣根に伝わる訳ではない、と言っていたが、垣根の思考に応えるだけにしてはどうにも言葉数が多すぎる。 どうでもいいことでこちらのツッコミを誘う様子はまるで構ってちゃんそのものだ。 〈ふ……そこで突っ込んでしまう貴様にとやかく言われる筋合いはないがな〉 「カッコつけといて否定はしないんだな……」 呆れながらもぼそり、と無意識に突っ込みを入れてしまう優しい垣根くん。 すると、 「もぅ、痛いですよー」 前方から突如声が聞こえてきた。 (痛い? しまった、今の声に出てたか? 白昼堂々大通りで独り言言ってる人間がいたら、確かに痛い!) 「え、えーと、いやこれは……」 垣根はまだ見ぬ突っ込み主に弁明しようとするが、 「あれ、いない……?」 目の前に人影はない。 「こっちですよー」 再び聞こえてきた声の出ところを探って視線を下に下げると、そこにはピンク色の髪をした幼女が一人尻餅をついていた。 「まったく、先生にぶつかっておいて謝りもしないなんて、一体どこの学校の生徒ちゃんですかー?」 「先生……?」 どうやら資料を見ながら歩いているうちに衝突してしまったようだ。 幼女は、立ち上がりながらよく分からないことを愚痴ったかと思うと、ふと垣根の持っている資料に視線を寄越した。 「姫神……秋沙……?」 「! テメェ、こいつのこと知ってるのか!?」 つい、語調を荒げてしまう垣根。 「むむぅ。度々先生に向かって失礼な子ですねー。でも、その様子だとやっぱりこの子を探しているんですねー。迷子ですか?それとも家出?」 対して、幼女は慌てた様子もなく垣根の手から資料を引ったくる。 「……あー、まぁ家出みてぇなもんだ」 正確には家を追い出された後、新しい家に行かずに放浪しているのだから、家出の真逆と言えなくもないが。 「で、テメェはこいつについて何か知ってんのか?」 「いいえ、この子のことは今はじめて知りましたが……先生、この子を捜すの、手伝えると思いますよー?」 そう言って悪戯っぽく笑う幼女。 この幼女こそ、四度目にしてようやく垣根の前に現れた救世主であったのだった。 「マジでか……」 〈恟然。マジ出島〉 突如現れた幼女――その後の自己紹介で月詠小萌と名乗った幼女は、実は成人女性で、学園都市内のとある高校の教師であった。 それも確かに驚きの内容だったが―― 「えっへん。言ったとおり、ほら、もう姫神ちゃん見つけちゃったのですよー」 無い胸を張って威張る月詠の指し示す先――人気のない児童公園のベンチに、大きな旅行用カバンを抱え、いつかと同じ巫女服を着た姫神秋沙の姿があった。 心理学の応用で家出した子の行動パターンなどを読み、そういった子供達が溜まっていそうなところに赴き、これを保護する――そんなことを『趣味』と言ってのけた月詠に半ば押し切られる形で(どうあっても姫神の資料を放そうとしなかった)彼女を姫神探しの一行に加えることにした。 大して期待はしていなかった垣根とアウレオルスであったが、姫神の資料を一読し、数分だけ考えた後月詠が提示した『候補地』。 数あるそれらの始めの二カ所目を巡ったところで、垣根たちは早速姫神秋沙の姿を発見してしまったのだ。 「それで、どうして姫神ちゃんを探していたんですかー?」 下手をすれば自身より年上に見えかねない少女をちゃん付けで呼び、月詠は垣根に問いかけてくる。 「ちょっとした野暮用だ」 「んー、不純なことじゃないですよねー?」 「全然、全く」 食い下がる月詠を適当に切り捨て、垣根は姫神に近づいていく。 「……!あなたは。……。いえ。何でもない」 垣根に気づいた姫神が、微妙な反応をする。 垣根の顔には見覚えがあるが、垣根は姫神のことを覚えていない筈であるということに思い至ったのであろう。 「久しぶりだな。姫神秋沙」 勿論実際は姫神のことを覚えている――思い出している垣根は、臆することなく少女に声をかける。 「!? あなたは。アウレオルスに。記憶を消去された筈」 「だったんだけどな。色々あったんだよ。今日はテメェに用事があって来たんだ……?」 そこで、垣根はあることに気づいた。 (そういやアウレオルス。姫神のその後を見るって話だったが、俺は実際何をすればいいんだ?) 〈言っていなかったか。簡単。私が姫神秋沙の能力『吸血殺し』を封じたとすれば、『歩く教会』の機構を利用した何かしらの霊装を姫神に持たせている筈〉 (だが見た感じ何も持ち歩いちゃいねーみたいだぞ?) 〈手に持つような物ではあるまい。身体から離してしまった途端に能力が再発してしまうのだからな。おそらく服の内側に隠してあるか、服そのもの、あるいは装身具といったものであろうな。だが不都合は無い〉 (何か見抜く方法でもあるのか?) 〈当然。今から私が伝える通りのことを姫神秋沙に言えばよい〉 (了解) 体感時間では数秒の遣り取りを脳内で済ませ、垣根は改めて姫神に向き直る。 「あー、用事ってのはだな……」 〈服を脱げ〉 「服を脱げ」 「…………………………」 「…………………………」 女性二人、どん引きである。 (って、全然不純じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!! 何言わせんだコラァァァァ!!!) 〈明然。不純な意図などない。霊装であるか否かなど、直接見れば魔術を使わずともすぐに分かる。故に衣服や装身具の提供を訴えただけだが?〉 (言い方ってもんがあるだろうが! 横柄なんだよ! 言葉数少なすぎんだよ!) 〈それが私のスタンスだ〉 (知らねーよぉぉぉぉぉぉぉ!!) 垣根が脳内で緊急会議を開いている間に。 「……垣根ちゃん……それは……何というか……余りにも露骨ですよ……」 月詠は携帯電話に手が伸びるまで後少しと言った雰囲気。 「あの時の仕返し? だとしても。頷くわけにはいかない。女として」 一方姫神はベンチから立ち上がると、どこからかスタンガンとしても使える学園都市製の特殊警棒を取り出し、垣根に向かって突き出してきた。 「あー、いや。ゴメン、今のは言い間違い。脱げじゃなくて、服を貸して欲しいというか……」 「私の服を。着たいと言うこと?」 「どうしてそうなるっ!?」 〈文脈的に正しい読みとり方だと思うが〉 (その一文目から間違ってんだよ! テメェのせいでな!) いちいちアウレオルスに付き合ってやる垣根も垣根だが、当然その議論は姫神には伝わらない。 「問答無用。女の敵は。魔法のステッキで。成敗」 言い、姫神が魔法のステッキもとい警棒を振り上げる。 〈よし、向こうが先に手を出したぞ。正当防衛と称して適当に揉み合って服を脱がせ。後は私が何とかする〉 (何ともならねぇよ! 俺の人間としての尊厳が真っ逆様に焼却炉行きだよ!) 思いながらも、垣根は左手に『未元物質』の籠手を出現させ、振り下ろされる警棒に向かって叩きつける。 「――!?」 何の抵抗もなく姫神の手から弾き出される警棒。 姫神は高圧電流が流れており、ちょっと触れるだけでも失神しかねないそれを弾かれたことに驚愕しているようだが、何のことはない、絶縁性の『未元物質』で籠手を形作っただけである。 「……。私を。どうするつもりなの」 武器を失い、後ずさる姫神。 だがその背中はすぐに、公園に設置された自販機に触れてしまった。 〈行け。今が好機だ〉 尚も阿呆なことを叫ぶ脳内の声に、垣根は。 ドンッ、と自販機を叩き、 「……黙れよ」 声に出してアウレオルスを諫める。 「………………………」 すると、何故か小さく抗議していた姫神の声がなくなった。 それに気づいて垣根が視線を下げると、 (……おい、アウレオルス。もしかしてこれじゃないのか?) 姫神の胸元に、ネックレスのようなものが架かっているのが見えた。 垣根は空いている右手をネックレスの紐部分に伸ばし、それを引き上げる。 すると、その先には十字架を模したアクセサリーのようなものが繋がっていた。 〈昭然。間違いない。これが姫神秋沙の『吸血殺し』を封じている霊装だ。確かに『歩く教会』の機構を利用している。だが私の作品ではないな。この手際は……禁書目録か? 彼女に製作を依頼したということなのか……〉 ぶつぶつと呟くように思考するアウレオルス。 (ま、何にしろ姫神との契約は果たせてたってことだろ。しかも禁書目録がこいつを作ったってことは間違いなくテメェは禁書目録と会えてる。嫌な可能性は見えないぜ?) 〈……そうだな。私なら霊装の製作も自分でこなすと考えていたが……禁書目録の方から申し出たということもあるだろう。問題はない〉 思うところがあったようだが自己完結したらしいアウレオルス。 問題がないと言うなら、ひとまずこれで垣根の役目の第一段階は終了である。 「………………………」 「………………………」 〈この、あからさまに不審な目で貴様のことを見つめている姫神秋沙と、今にも携帯電話で人を呼びそうな月詠小萌をどうにかしたらな〉 (…………テメェが言うな) 垣根はまず姫神に事情を話した。 『脳に寄生するアウレオルス=イザード』という事象を説明して理解してもらえるか心配だったが、もともとアウレオルスの魔術に触れており、自らも『吸血殺し』という異能を持っているためか、 「そう」 の一言で処理されてしまった。 何にしろ、垣根の意図せんことはきちんと伝わったようで、携帯電話を握りしめてわなわなしている小萌には、姫神の方から適当に説明してもらった。 「知り合い。スキンシップ」 ……それにしてもあんまりな説明ではあったが。 「もう、垣根ちゃん。紛らわしいことしないでくださいよー」 ……信じる月詠も月詠であったが。 「まぁ、やっとゆっくり話が出来るようになったからいいか」 「元はと言えば。あなたのせい」 「俺って言うか、アウレオルスな。そこは譲れねぇ」 的確な姫神の指摘をかわしつつ、垣根は姫神に言う。 「分かってもらえたと思うが、俺はアウレオルスのアフターサービスのためのただ働きのバイトだ。それでも頭の中からアウレオルスの五月蠅ぇ声を消去するためには仕方がねぇんで付き合ってやってる」 「えぇ。了解」 「そんじゃ、改めて聞くが……テメェのその十字架のペンダント。そいつはアウレオルスがテメェとの契約を果たすために、テメェに提供した『吸血殺し』封じのアイテムってことでオッケーなんだな?」 最初からこうやって聞けばよかった、と阿呆なことを言ったアウレオルスを恨みつつ姫神の返答を待つが、 「……………………」 姫神はこちらを見据えたままなかなか答えようとしない。 「どうした?」 「アウレオルスが。本当にあなたの脳内に住んでいるなら。自分のしたことくらい分かっている筈。どうして。そんなことを確認するの?」 「ん、あぁ」 確かにそれは気になるところであろう、と垣根はアウレオルスからの受け売りの知識を伝える。 「どうにも俺の中にいるアウレオルスには、俺が三沢塾に殴りこみに行った日――つまりは8月3日時点でのアウレオルス=イザードの知識と経験しかないらしい。だから、野郎は目的が果たされたのかどうか、直接知ってる訳じゃねぇんだ。ま、その十字架を見た時のアウレオルスの反応から察するに、問題はなさそうだが」 「…………そう」 何かを噛み締めるようにゆっくりと頷く姫神。 「……? もしかして、何か不具合でもあったのか?」 その様子に引っかかるものを覚えた垣根が問うが―― 「……何も」 俯いたまま。 ゆっくりと、しかししっかりと。 姫神は告げる。 「全て。あなたの言うとおり。この十字架は。私のチカラを封じるために。アウレオルス=イザードが与えてくれたもの。私は。アウレオルスに救われた」 言い終えてから、姫神は顔を上げて再度垣根を見る。 その顔は――かつて見た無表情なそれと寸分違わないように見えた。 (……だってよ) 自身と同じことを聞いていたであろう、脳内の三沢塾校長室のティーテーブルに座するアウレオルスに確認を取る垣根。 〈あぁ。了解した。協力に感謝する〉 それに、先ほどまでの釈然としない表情から解放されたアウレオルスが頷き返す。 (まだ、もう一個残ってるだろうが。むしろそっちが本題だ) 〈的然。分かっている〉 (ま、ここでもまた新たな問題が浮上するんだがな……) 思いながら、つい口に出して溜め息をつく垣根。 「ったく、禁書目録は一体どこにいるんだ?」 すると、 「インデックス……?」 「インデックスちゃんがどうかしたんですかー?」 その呟きに二通りの返答があった。 「なっ、テメェら禁書目録を知ってるのか!?」 思わず問うた垣根に、 「ええ」 「知ってますよー」 と当たり前だと言わんばかりに返答する姫神と月詠。 〈……楽あれば苦あり、苦あれば楽あり、か〉 どうやら今度はそれほど苦労せずに済みそうだ。 「第七学区の病院……あぁ、そこなら分かる。って、禁書目録は今入院してるのか?」 姫神と月詠から禁書目録の居場所を聞き出した垣根は、その予想外の答えについそう聞き返した。 「いいえ」 「入院してるのは上条ちゃんの方ですよ」 「上条?」 横から月詠が垣根の知らない名前を出す。 脳内のアウレオルスも、どうやらその名前には覚えがないようである。 すると、無表情ながらどこか言いにくそうな様子で、姫神が口を開いた。 「……上条当麻は。インデックスの。今のパートナー」 「………………」 チラリ、と脳内で対面の席に座っているアウレオルスの顔色を窺う。 それに気づいたのか、アウレオルスは垣根の顔を真っ直ぐに見ると、相変わらずの涼しげな調子で話し出す。 〈当然。禁書目録にはその年ごとにそばに寄り添うパートナーが存在した。一年しか記憶の保たない禁書目録と、ずっと一緒にいられるだけ強い者などいなかったからな。今は、その上条という人間がその位置にいるだけだ。何も不思議はないし、不都合もない〉 (だがよ、テメェが『首輪』の破壊に成功していればもう禁書目録は記憶を失うことはない。つまりその上条って奴はこれからずっと……) 〈当然だと言ったであろう〉 垣根の言葉を断ち切るように、アウレオルスが言う。 〈それで良い。例え禁書目録が私という存在の一切を忘れたままに救われようとも、私のことを思い出すことなく日々を過ごそうとも。彼女を助けることが出来れば、それだけで良い〉 (……とんだエゴイズムだな) 吐き出すような垣根の言葉に、 〈否定はせん。私は、彼女を救うことで自身を救おうとしている。或いは、救おうとしていた、か。……だが、貴様にそんなことを言われるとはな〉 (…………何だよ) 〈言ったであろう、嘘は吐けないと。貴様は私と同類。私と同じ思考を持つ。そんな言葉を吐きつつも、真実貴様は私の思考に賛同している〉 (…………ちっ) 〈感謝する〉 (っ………………) 〈守るべきものを第一に考え、そのために自身の相手への想いさえ押し殺してしまう不幸。自身と相手との時間さえ犠牲にしてしまう不幸。私と同じ思考をつが故に、そのことを知っている貴様だからこそ――私に意見することで、慰めようとでもしてくれたのだろう〉 ――貴様相手になら、吐き出しても良いのだと。 (……みなまで言うなよ、俺が凄い恥ずかしい奴みたいじゃねぇか。つーか、そう言えるってことは、テメェがトレースしたその俺の考えは丸ごと余計なお節介だったってことか) 〈覚悟していたことであるからな。それでも――嬉しくはあった。だから、感謝する〉 (…………禁書目録の居場所が分かったんだ。さっさと行って用事済ませて、テメェもどこへなりとも消えやがれ) アウレオルスの言葉には応えず、垣根はそう締めくくると精神世界から現実世界へ戻ってくる。 目の前には、アウレオルスに代わって仏頂面の姫神秋沙が立っている。 垣根の反応を窺っているのだろう。 「……そっか、了解。アウレオルスの用事は禁書目録に会うことだ。だれがパートナーだろうが関係ねぇよ。情報サンキューな」 垣根は、姫神に一方的にそう言うと、返答を待たずに公園を出た。 ――向かう先は、決まっている。 「………………」 公園を後にする垣根帝督。 その後ろ姿を、姫神秋沙は無言で見送っていた。 「どうして嘘吐いたんですか?」 隣から(と言うには大分高さが足りないが)、月詠が声をかけてくる。 「……バレてた?」 「先生は先生ですからねー。嘘吐いたって簡単に分かっちゃうんですよー」 相変わらずの無乳を強調するように胸を反らす月詠に、姫神は静かに語り出す。 「……あの人は。あの子を救いたかったんじゃなくて。本当は。あの子に救われたかった」 「………………」 抽象的な姫神の語りを、月詠は一切口を挟まずに、しかし真摯に聞く。 成る程確かに、その様は教師に相応しい。 「それでも。あの人はあの子を救うための努力をした。自分が救われるために努力をした。……対して私は。あの人に頼りきりで。あの子だけでなく私も救ってくれると言ったあの人に頼りきりで。私はあの人には何もしてあげられなかった。交換条件はあったけれど。それは私の努力によるものではないし。何よりその条件すら私は満たすことが出来なかった」 一度区切って、姫神は噛み締めるように言う。 「だからせめて。例えあの人の残滓に過ぎないとしても。その心を救ってあげたかった。私を救おうとしてくれたあの人の心を。――嘘を吐いてでも」 姫神が、無表情のまま涙を一筋流した。 アウレオルスは、偽りの物語の中で消えていく。 その筋書きが例えハッピーエンドだとしても。 アウレオルスが思い残すことなく消えることが出来るとしても。 おそらくアウレオルスはバッドエンドであれ真実を知りたかった筈であり。 それを偽ったのは――紛れもなく姫神自身なのだ。 「…………姫神ちゃんは、優しい子ですね」 月詠が、姫神を抱きしめる。 ともすれば身長差から姫神の方が月詠に抱きついているようにも見えるが、月詠は構わず、静かに涙を流す姫神の背中を優しく叩く。 「今日は先生の家で一緒にご飯を食べましょう。行くところがないなら、行きたい所が見つかるまで、先生の家にいていいですから」 慈しむような月詠の言葉。 その母親のような優しさに触れて、 「…………ありがとう」 姫神は、少しだけ表情を綻ばせたのだった。 垣根帝督の十番勝負 第五戦 『姫神秋沙』 対戦結果――完勝(決まり手・ドンッ!「……黙れよ」) 次戦 対戦相手――『禁書目録』
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1481.html
本日の実験を終えた垣根帝督は、木原研究所内にある資料室を訪れていた。 「やっぱり、研究資料と一緒に依頼の資料も放っぽってやがる。シュレッダーにもかけてねぇし。相変わらず、研究以外はズボラな野郎だ」 呟きつつ、垣根は姫神秋沙に関する資料を紙束の見つけ出す。 ざっと目を通して確認した後、それを小さく折りたたんでジーンズのポケットに入れたところで、突然資料室の扉が開け放たれた。 「こんな所にいたのかい」 言いながら入ってきたのは木原幻生その人。 「どうも、明日の依頼の資料を確認しようと思いまして」 努めて冷静に言いながら、垣根は部屋の隅に無造作に置かれている、明日行う予定の依頼についての資料の束を手に取る。 「……ふふん。熱心でいいことだ。ところでね、帝督くん。今日の実験の結果が出たんだけどね、見てくれるかな」 特に気にした様子もなく、垣根は資料室に設けられたら四角い机に数枚のコピー用紙を広げた。 「わかるよね」 「…………」 資料を覗いた瞬間、幻生の言わんとしていることは分かっていたが、 「……何が、ですか?」 垣根ははぐらかすような答えを返す。 「やれやれ、ここの数値だよ。一月に一回行っている検査実験。それの、ここ半年間の結果をグラフ化したものだ」 幻生は白衣の胸ポケットからボールペンを取り出すと、わざとらしく六つの棒グラフの天辺を繋ながら言った。 「段々上昇率が下がってきている。そして先月と今月じゃ、もうほとんど横這いだ」 「…………」 「天井が見えてきてしまったのかな。天上に届く前に、ね」 トントン、とボールペンの先で用紙を叩きながら、一体何がおもしろいのか、くつくつ、と声を押し殺して笑う幻生。 〈歴然。今のは『天井』と『天上』の音が同じことを利用した駄洒落と呼ばれる技法だ〉 (……いいからテメェは黙っててくれねぇか) 頭の中に響く声に釘を刺し、垣根は幻生に向き直る。 「確かに実験の結果が著しく良くなっている訳ではありませんが、悪くなっている訳でもありません。『未元物質』の能力は衰えていない、だったらまだ研究価値はあるでしょう。あなた方は、未だに『未元物質』が何であるか、その取っ掛かりすら掴めてはいないんですから」 文句を言うなら、まずは『未元物質』を解明してからにしろ。 その言い分は、今まで『未元物質』を研究してきた研究者たちが、今回のように垣根を手放そうとする度、『次の雇い主』を探すため、或いは移転のための時間稼ぎに言ってきたことだ。 こう言えば、その言葉を真に受けて――或いはその言葉が薄っぺらい自尊心に触れて、『未元物質』の研究を引き伸ばすことがあったのだ。 だが、 「何度も言うようだけど、私の興味は絶対能力、ただそれのみ。だから君の『未元物質』という能力それ自体には何の興味もないし――突き詰めてしまえば君が絶対能力者にさえなってくれれば、『未元物質』の実態を解明できなくとも構わない」 幻生が、気味の悪い笑みを浮かべる。 「そして今の君には、もう絶対能力者への進化の兆しが全く見られない。これは、新しい可能性に研究を移すべきかもしれないね」 「どういう……」 「新しい能力者を開発した方がいいかもしれないってことだよ。……あぁ、そういえば。姫垣くんは、能力開発していないんだっけ?」 「――――!」 ドガンッ、と大きな音を立てて。 机が真っ二つに弾けた。 「……それは、契約違反です。木原幻生さん」 幻生を睨みつけて、一言一言区切るように垣根が告げる。 「分かっているよ。流石に全く未知の可能性と現超能力者とでは、後者の方に天秤が傾かざるを得ない。――現段階では、ね。君にはもうしばらく付き合ってもらうよ。垣根帝督くん」 悪びれた様子もなく、飄々と言ってのける幻生に、 「…………失礼します」 垣根はそれだけ答えると、幻生の横をすり抜けて部屋を出て行った。 〈そちらにも、困難はあるようだな〉 木原研究所を出てしばらくしてから、頭の中からアウレオルスの声が響いてきた。 (テメェのに比べれば大したことじゃねぇ。禁書目録に例えるなら、まだヒメは『首輪』を嵌められる前の状態だ。何とでも、護り様がある) 半ば自身に言い聞かせるような言葉。 それすらもアウレオルスには伝わっているであろうことを知っていて、しかしだからこそ垣根はどこか安心した心地がした。 (俺の問題は俺が解決する。もとより超能力に関わりのねぇテメェには関係のない話だ。それより今はテメェの用件だろ) 心中で語りかけながら、垣根は先ほど資料室から掠めてきた姫神秋沙の資料を広げる。 (取り敢えず、こいつが生活してる霧ヶ丘女学院の寮の部屋を訪ねてみる。上手くいけばいきなり会えるかもだ) しかし、物事はそうそう上手くは運ばない。 「た、退学したってどういうことだよ!?」 「今朝方、姫神秋沙の所持するレベル4『吸血殺し』の能力が失われたとの報告を本人から受けました。そのため、姫神秋沙を退学処分にし、本学の学生名簿より抹消、それに伴い寮も引き払って頂きました」 一体どこに不明な点があるのか、とでも言うような事務員の視線にイライラとしながら、垣根はアウレオルスに問いかける。 (どういうことだ、オイ。能力がなくなったって……) 〈おそらく『私』が『歩く協会』の機構を応用して姫神秋沙の能力を封じたのであろう。禁書目録救出の暁にはそのように処置する契約になっていたからな。しかし、憮然。学園都市では能力を失っただけで退学処分になるのか?〉 (あぁ、クソ食らえなシステムだろ。もっとも、それもエリート校に限った話だがな) 「それで、姫神さんはその後どちらに?」 心中の会話とは180度違う態度で事務員に質問する垣根。 「本日付けで園の方に転属になっています」 そう言って、事務員は学園都市内にあるとある施設のパンフレットを提示した。 所謂、置き去りと呼ばれる子供たちが集められた場所である。 (そういや姫神秋沙は孤児だったな……) 「分かりました、どうもありがとうございます」 丁寧に礼をしてパンフレットを仕舞うと、垣根は即座に回れ右をして道を戻る。 (ま、これで次の手掛かりは掴めた。まだ糸は切れてねぇさ) ところが、悪いことと言うのは、なかなかどうして続けざまに訪れるものである。 「……まだ来ていない、と」 「えぇ、午前中には学院を出たらしいのですが……まだ……」 困った顔で対応する施設の保育士に、垣根は張り付いていると言うより凍りついていると言った方が相応しいような笑顔を向けて言う。 「何か心当たりとか……」 「そう言われましても、こちらはまだ一度も直接顔を合わせたことすらありませんし……」 「……そうですか。ありがとうございました」 踵を返し、施設を後にする垣根。 (どーすんだぁオイどーすんだよコルァ! 姫神秋沙はどこで油売ってんだ道草喰ってんだ!) 〈ふむ。おそらく学院を出たものの、施設に行くのが何となく嫌になってそのままそこらを放浪しているのだろう〉 そういう癖のある女だった、とあっけからんと言うアウレオルスに頭を抱えつつ、現状を打開しようと質問を重ねる。 (姫神の行きそうなところに心当たりは……) 〈皆無だ〉 (……だろうな。っつか、じゃあそれこそ禁書目録の方なんてどうするつもりなんだ? 手がかりがないどころか、ひょっとするとイギリス清教に連れ帰られちまって、もう学園都市にはいねぇかもしれねぇぞ?) 言い忘れてたが俺ら能力者はそう簡単に外には出られねぇんだよ、と言う垣根に、アウレオルスはやはり落ち着いた様子で返す。 〈それはないな。私が『どの段階まで』禁書目録を救出したにしろ……『首輪』が外れたこと、魔道書についての知識がなくなったことをイギリス清教が自ら公言することはないであろう。そしてそうである限り、禁書目録は他の魔術協会にとって忌避すべき脅威であり、かつ格好の獲物でもある。そんな風に危険がいくらでも寄ってくる禁書目録だ。イギリス清教は彼女を学園都市から出すまい。ここは、魔術サイドにとっての中立地帯であるからな〉 (……だが、どの道学園都市のどこにいるかは分からないんだろ。つーか、そもそも発信機とか付けてねぇのかよ) 〈発信機……そうか、そうだったな〉 はっ、としたようにアウレオルスが声を上げる。 (? 何かあるのか?) 期待を込めた垣根の声に、アウレオルスが自慢げに答える。 〈当然。私をあまり甘く見ないことだな。三沢塾へ行け。鍵はそこにある〉 (お、おぉ分かったぜ!) だがしかし、二度あることは三度あるとはよく言ったものである。 「……んで、これが何だってんだ?」 垣根はアウレオルスに指示された三沢塾校長室(当然不法侵入した)に置かれた机のとある引き出しから、ビニルに入った二種類の髪の毛を取り出した。 一方は黒、もう一方は銀色で、どちらも随分長い。 〈姫神秋沙と禁書目録の頭髪だ〉 (そういう趣味が……) 〈否。魔術とは便利なものでな。持ち物からその持ち主の居場所を特定する術式があるのだ。それを使えば、二人の位置などすぐに分かる。思い知ったか、これが錬金術師・アウレオルス=イザードだ〉 (…………あー) 垣根は脳内で誇らしげに騒ぐアウレオルスに、ビニル袋を揺らしながら問う。 (――んで、誰がその魔術を使うんだ?) 〈? 明然。私に決まっているであろう〉 (ほぅ、俺の脳味噌に寄生してるテメェが、どうやって魔術を使うって?) 〈…………………………〉 (確か超能力者の脳味噌じゃ魔術は使えねぇんだよな。三沢塾の学生は再生出来たからいいが俺はそうはいかねぇし、俺の脳がダメージを受けた結果テメェが消滅するっていうシナリオも有り得るぜ?) 〈………………………呆然。そういえばそうだったな〉 目を閉じれば、そこには脂汗を滝のように流しているアウレオルスの姿がありありと見えた。 〈だ、だが! そうだ! 禁書目録の『自動書記』なら、能力開発を受けていない人間に代わりに魔術を行わせることができ――〉 「だぁからその禁書目録を探してんだろうがこのスカシイケメンがぁぁぁぁぁ!!!!」 声に出して叫びながら、垣根は脳内でアウレオルスに向かって右ストレートの突っ込みを思いっきりお見舞いした。 (あー、もう止めよっかなー! 手伝ってやるの止めよっかなー!) 〈やれやれ、最近の若者はすぐに飽きただの何だのと言って物事を放り出す。嘆かわしいことだ〉 (誰のせいだと思ってるんだ、アウレオルスさんじゅうはっさい?) 〈……貴様、今の思考を間違っても漢字変換するなよ〉 垣根帝督は無駄足を踏んだとばかりにさっさと三沢塾を離れ、第七学区を放浪していた。 しかし今回ばかりは手掛かりも何もなく、本当にあてもなく彷徨っているだけだ。 「こんなんじゃどう考えたって見つかりゃしねーもんな」 姫神秋沙の資料を広げ、声に出して溜め息を吐く垣根。 相変わらず頭の中には涼しい声が響いており、それが垣根のイライラを一層高めている。 アウレオルスの思考は全て垣根に伝わる訳ではない、と言っていたが、垣根の思考に応えるだけにしてはどうにも言葉数が多すぎる。 どうでもいいことでこちらのツッコミを誘う様子はまるで構ってちゃんそのものだ。 〈ふ……そこで突っ込んでしまう貴様にとやかく言われる筋合いはないがな〉 「カッコつけといて否定はしないんだな……」 呆れながらもぼそり、と無意識に突っ込みを入れてしまう優しい垣根くん。 すると、 「もぅ、痛いですよー」 前方から突如声が聞こえてきた。 (痛い? しまった、今の声に出てたか? 白昼堂々大通りで独り言言ってる人間がいたら、確かに痛い!) 「え、えーと、いやこれは……」 垣根はまだ見ぬ突っ込み主に弁明しようとするが、 「あれ、いない……?」 目の前に人影はない。 「こっちですよー」 再び聞こえてきた声の出ところを探って視線を下に下げると、そこにはピンク色の髪をした幼女が一人尻餅をついていた。 「まったく、先生にぶつかっておいて謝りもしないなんて、一体どこの学校の生徒ちゃんですかー?」 「先生……?」 どうやら資料を見ながら歩いているうちに衝突してしまったようだ。 幼女は、立ち上がりながらよく分からないことを愚痴ったかと思うと、ふと垣根の持っている資料に視線を寄越した。 「姫神……秋沙……?」 「! テメェ、こいつのこと知ってるのか!?」 つい、語調を荒げてしまう垣根。 「むむぅ。度々先生に向かって失礼な子ですねー。でも、その様子だとやっぱりこの子を探しているんですねー。迷子ですか?それとも家出?」 対して、幼女は慌てた様子もなく垣根の手から資料を引ったくる。 「……あー、まぁ家出みてぇなもんだ」 正確には家を追い出された後、新しい家に行かずに放浪しているのだから、家出の真逆と言えなくもないが。 「で、テメェはこいつについて何か知ってんのか?」 「いいえ、この子のことは今はじめて知りましたが……先生、この子を捜すの、手伝えると思いますよー?」 そう言って悪戯っぽく笑う幼女。 この幼女こそ、四度目にしてようやく垣根の前に現れた救世主であったのだった。 「マジでか……」 〈恟然。マジ出島〉 突如現れた幼女――その後の自己紹介で月詠小萌と名乗った幼女は、実は成人女性で、学園都市内のとある高校の教師であった。 それも確かに驚きの内容だったが―― 「えっへん。言ったとおり、ほら、もう姫神ちゃん見つけちゃったのですよー」 無い胸を張って威張る月詠の指し示す先――人気のない児童公園のベンチに、大きな旅行用カバンを抱え、いつかと同じ巫女服を着た姫神秋沙の姿があった。 心理学の応用で家出した子の行動パターンなどを読み、そういった子供達が溜まっていそうなところに赴き、これを保護する――そんなことを『趣味』と言ってのけた月詠に半ば押し切られる形で(どうあっても姫神の資料を放そうとしなかった)彼女を姫神探しの一行に加えることにした。 大して期待はしていなかった垣根とアウレオルスであったが、姫神の資料を一読し、数分だけ考えた後月詠が提示した『候補地』。 数あるそれらの始めの二カ所目を巡ったところで、垣根たちは早速姫神秋沙の姿を発見してしまったのだ。 「それで、どうして姫神ちゃんを探していたんですかー?」 下手をすれば自身より年上に見えかねない少女をちゃん付けで呼び、月詠は垣根に問いかけてくる。 「ちょっとした野暮用だ」 「んー、不純なことじゃないですよねー?」 「全然、全く」 食い下がる月詠を適当に切り捨て、垣根は姫神に近づいていく。 「……!あなたは。……。いえ。何でもない」 垣根に気づいた姫神が、微妙な反応をする。 垣根の顔には見覚えがあるが、垣根は姫神のことを覚えていない筈であるということに思い至ったのであろう。 「久しぶりだな。姫神秋沙」 勿論実際は姫神のことを覚えている――思い出している垣根は、臆することなく少女に声をかける。 「!? あなたは。アウレオルスに。記憶を消去された筈」 「だったんだけどな。色々あったんだよ。今日はテメェに用事があって来たんだ……?」 そこで、垣根はあることに気づいた。 (そういやアウレオルス。姫神のその後を見るって話だったが、俺は実際何をすればいいんだ?) 〈言っていなかったか。簡単。私が姫神秋沙の能力『吸血殺し』を封じたとすれば、『歩く教会』の機構を利用した何かしらの霊装を姫神に持たせている筈〉 (だが見た感じ何も持ち歩いちゃいねーみたいだぞ?) 〈手に持つような物ではあるまい。身体から離してしまった途端に能力が再発してしまうのだからな。おそらく服の内側に隠してあるか、服そのもの、あるいは装身具といったものであろうな。だが不都合は無い〉 (何か見抜く方法でもあるのか?) 〈当然。今から私が伝える通りのことを姫神秋沙に言えばよい〉 (了解) 体感時間では数秒の遣り取りを脳内で済ませ、垣根は改めて姫神に向き直る。 「あー、用事ってのはだな……」 〈服を脱げ〉 「服を脱げ」 「…………………………」 「…………………………」 女性二人、どん引きである。 (って、全然不純じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!! 何言わせんだコラァァァァ!!!) 〈明然。不純な意図などない。霊装であるか否かなど、直接見れば魔術を使わずともすぐに分かる。故に衣服や装身具の提供を訴えただけだが?〉 (言い方ってもんがあるだろうが! 横柄なんだよ! 言葉数少なすぎんだよ!) 〈それが私のスタンスだ〉 (知らねーよぉぉぉぉぉぉぉ!!) 垣根が脳内で緊急会議を開いている間に。 「……垣根ちゃん……それは……何というか……余りにも露骨ですよ……」 月詠は携帯電話に手が伸びるまで後少しと言った雰囲気。 「あの時の仕返し? だとしても。頷くわけにはいかない。女として」 一方姫神はベンチから立ち上がると、どこからかスタンガンとしても使える学園都市製の特殊警棒を取り出し、垣根に向かって突き出してきた。 「あー、いや。ゴメン、今のは言い間違い。脱げじゃなくて、服を貸して欲しいというか……」 「私の服を。着たいと言うこと?」 「どうしてそうなるっ!?」 〈文脈的に正しい読みとり方だと思うが〉 (その一文目から間違ってんだよ! テメェのせいでな!) いちいちアウレオルスに付き合ってやる垣根も垣根だが、当然その議論は姫神には伝わらない。 「問答無用。女の敵は。魔法のステッキで。成敗」 言い、姫神が魔法のステッキもとい警棒を振り上げる。 〈よし、向こうが先に手を出したぞ。正当防衛と称して適当に揉み合って服を脱がせ。後は私が何とかする〉 (何ともならねぇよ! 俺の人間としての尊厳が真っ逆様に焼却炉行きだよ!) 思いながらも、垣根は左手に『未元物質』の籠手を出現させ、振り下ろされる警棒に向かって叩きつける。 「――!?」 何の抵抗もなく姫神の手から弾き出される警棒。 姫神は高圧電流が流れており、ちょっと触れるだけでも失神しかねないそれを弾かれたことに驚愕しているようだが、何のことはない、絶縁性の『未元物質』で籠手を形作っただけである。 「……。私を。どうするつもりなの」 武器を失い、後ずさる姫神。 だがその背中はすぐに、公園に設置された自販機に触れてしまった。 〈行け。今が好機だ〉 尚も阿呆なことを叫ぶ脳内の声に、垣根は。 ドンッ、と自販機を叩き、 「……黙れよ」 声に出してアウレオルスを諫める。 「………………………」 すると、何故か小さく抗議していた姫神の声がなくなった。 それに気づいて垣根が視線を下げると、 (……おい、アウレオルス。もしかしてこれじゃないのか?) 姫神の胸元に、ネックレスのようなものが架かっているのが見えた。 垣根は空いている右手をネックレスの紐部分に伸ばし、それを引き上げる。 すると、その先には十字架を模したアクセサリーのようなものが繋がっていた。 〈昭然。間違いない。これが姫神秋沙の『吸血殺し』を封じている霊装だ。確かに『歩く教会』の機構を利用している。だが私の作品ではないな。この手際は……禁書目録か? 彼女に製作を依頼したということなのか……〉 ぶつぶつと呟くように思考するアウレオルス。 (ま、何にしろ姫神との契約は果たせてたってことだろ。しかも禁書目録がこいつを作ったってことは間違いなくテメェは禁書目録と会えてる。嫌な可能性は見えないぜ?) 〈……そうだな。私なら霊装の製作も自分でこなすと考えていたが……禁書目録の方から申し出たということもあるだろう。問題はない〉 思うところがあったようだが自己完結したらしいアウレオルス。 問題がないと言うなら、ひとまずこれで垣根の役目の第一段階は終了である。 「………………………」 「………………………」 〈この、あからさまに不審な目で貴様のことを見つめている姫神秋沙と、今にも携帯電話で人を呼びそうな月詠小萌をどうにかしたらな〉 (…………テメェが言うな) 垣根はまず姫神に事情を話した。 『脳に寄生するアウレオルス=イザード』という事象を説明して理解してもらえるか心配だったが、もともとアウレオルスの魔術に触れており、自らも『吸血殺し』という異能を持っているためか、 「そう」 の一言で処理されてしまった。 何にしろ、垣根の意図せんことはきちんと伝わったようで、携帯電話を握りしめてわなわなしている小萌には、姫神の方から適当に説明してもらった。 「知り合い。スキンシップ」 ……それにしてもあんまりな説明ではあったが。 「もう、垣根ちゃん。紛らわしいことしないでくださいよー」 ……信じる月詠も月詠であったが。 「まぁ、やっとゆっくり話が出来るようになったからいいか」 「元はと言えば。あなたのせい」 「俺って言うか、アウレオルスな。そこは譲れねぇ」 的確な姫神の指摘をかわしつつ、垣根は姫神に言う。 「分かってもらえたと思うが、俺はアウレオルスのアフターサービスのためのただ働きのバイトだ。それでも頭の中からアウレオルスの五月蠅ぇ声を消去するためには仕方がねぇんで付き合ってやってる」 「えぇ。了解」 「そんじゃ、改めて聞くが……テメェのその十字架のペンダント。そいつはアウレオルスがテメェとの契約を果たすために、テメェに提供した『吸血殺し』封じのアイテムってことでオッケーなんだな?」 最初からこうやって聞けばよかった、と阿呆なことを言ったアウレオルスを恨みつつ姫神の返答を待つが、 「……………………」 姫神はこちらを見据えたままなかなか答えようとしない。 「どうした?」 「アウレオルスが。本当にあなたの脳内に住んでいるなら。自分のしたことくらい分かっている筈。どうして。そんなことを確認するの?」 「ん、あぁ」 確かにそれは気になるところであろう、と垣根はアウレオルスからの受け売りの知識を伝える。 「どうにも俺の中にいるアウレオルスには、俺が三沢塾に殴りこみに行った日――つまりは8月3日時点でのアウレオルス=イザードの知識と経験しかないらしい。だから、野郎は目的が果たされたのかどうか、直接知ってる訳じゃねぇんだ。ま、その十字架を見た時のアウレオルスの反応から察するに、問題はなさそうだが」 「…………そう」 何かを噛み締めるようにゆっくりと頷く姫神。 「……? もしかして、何か不具合でもあったのか?」 その様子に引っかかるものを覚えた垣根が問うが―― 「……何も」 俯いたまま。 ゆっくりと、しかししっかりと。 姫神は告げる。 「全て。あなたの言うとおり。この十字架は。私のチカラを封じるために。アウレオルス=イザードが与えてくれたもの。私は。アウレオルスに救われた」 言い終えてから、姫神は顔を上げて再度垣根を見る。 その顔は――かつて見た無表情なそれと寸分違わないように見えた。 (……だってよ) 自身と同じことを聞いていたであろう、脳内の三沢塾校長室のティーテーブルに座するアウレオルスに確認を取る垣根。 〈あぁ。了解した。協力に感謝する〉 それに、先ほどまでの釈然としない表情から解放されたアウレオルスが頷き返す。 (まだ、もう一個残ってるだろうが。むしろそっちが本題だ) 〈的然。分かっている〉 (ま、ここでもまた新たな問題が浮上するんだがな……) 思いながら、つい口に出して溜め息をつく垣根。 「ったく、禁書目録は一体どこにいるんだ?」 すると、 「インデックス……?」 「インデックスちゃんがどうかしたんですかー?」 その呟きに二通りの返答があった。 「なっ、テメェら禁書目録を知ってるのか!?」 思わず問うた垣根に、 「ええ」 「知ってますよー」 と当たり前だと言わんばかりに返答する姫神と月詠。 〈……楽あれば苦あり、苦あれば楽あり、か〉 どうやら今度はそれほど苦労せずに済みそうだ。 「第七学区の病院……あぁ、そこなら分かる。って、禁書目録は今入院してるのか?」 姫神と月詠から禁書目録の居場所を聞き出した垣根は、その予想外の答えについそう聞き返した。 「いいえ」 「入院してるのは上条ちゃんの方ですよ」 「上条?」 横から月詠が垣根の知らない名前を出す。 脳内のアウレオルスも、どうやらその名前には覚えがないようである。 すると、無表情ながらどこか言いにくそうな様子で、姫神が口を開いた。 「……上条当麻は。インデックスの。今のパートナー」 「………………」 チラリ、と脳内で対面の席に座っているアウレオルスの顔色を窺う。 それに気づいたのか、アウレオルスは垣根の顔を真っ直ぐに見ると、相変わらずの涼しげな調子で話し出す。 〈当然。禁書目録にはその年ごとにそばに寄り添うパートナーが存在した。一年しか記憶の保たない禁書目録と、ずっと一緒にいられるだけ強い者などいなかったからな。今は、その上条という人間がその位置にいるだけだ。何も不思議はないし、不都合もない〉 (だがよ、テメェが『首輪』の破壊に成功していればもう禁書目録は記憶を失うことはない。つまりその上条って奴はこれからずっと……) 〈当然だと言ったであろう〉 垣根の言葉を断ち切るように、アウレオルスが言う。 〈それで良い。例え禁書目録が私という存在の一切を忘れたままに救われようとも、私のことを思い出すことなく日々を過ごそうとも。彼女を助けることが出来れば、それだけで良い〉 (……とんだエゴイズムだな) 吐き出すような垣根の言葉に、 〈否定はせん。私は、彼女を救うことで自身を救おうとしている。或いは、救おうとしていた、か。……だが、貴様にそんなことを言われるとはな〉 (…………何だよ) 〈言ったであろう、嘘は吐けないと。貴様は私と同類。私と同じ思考を持つ。そんな言葉を吐きつつも、真実貴様は私の思考に賛同している〉 (…………ちっ) 〈感謝する〉 (っ………………) 〈守るべきものを第一に考え、そのために自身の相手への想いさえ押し殺してしまう不幸。自身と相手との時間さえ犠牲にしてしまう不幸。私と同じ思考をつが故に、そのことを知っている貴様だからこそ――私に意見することで、慰めようとでもしてくれたのだろう〉 ――貴様相手になら、吐き出しても良いのだと。 (……みなまで言うなよ、俺が凄い恥ずかしい奴みたいじゃねぇか。つーか、そう言えるってことは、テメェがトレースしたその俺の考えは丸ごと余計なお節介だったってことか) 〈覚悟していたことであるからな。それでも――嬉しくはあった。だから、感謝する〉 (…………禁書目録の居場所が分かったんだ。さっさと行って用事済ませて、テメェもどこへなりとも消えやがれ) アウレオルスの言葉には応えず、垣根はそう締めくくると精神世界から現実世界へ戻ってくる。 目の前には、アウレオルスに代わって仏頂面の姫神秋沙が立っている。 垣根の反応を窺っているのだろう。 「……そっか、了解。アウレオルスの用事は禁書目録に会うことだ。だれがパートナーだろうが関係ねぇよ。情報サンキューな」 垣根は、姫神に一方的にそう言うと、返答を待たずに公園を出た。 ――向かう先は、決まっている。 「………………」 公園を後にする垣根帝督。 その後ろ姿を、姫神秋沙は無言で見送っていた。 「どうして嘘吐いたんですか?」 隣から(と言うには大分高さが足りないが)、月詠が声をかけてくる。 「……バレてた?」 「先生は先生ですからねー。嘘吐いたって簡単に分かっちゃうんですよー」 相変わらずの無乳を強調するように胸を反らす月詠に、姫神は静かに語り出す。 「……あの人は。あの子を救いたかったんじゃなくて。本当は。あの子に救われたかった」 「………………」 抽象的な姫神の語りを、月詠は一切口を挟まずに、しかし真摯に聞く。 成る程確かに、その様は教師に相応しい。 「それでも。あの人はあの子を救うための努力をした。自分が救われるために努力をした。……対して私は。あの人に頼りきりで。あの子だけでなく私も救ってくれると言ったあの人に頼りきりで。私はあの人には何もしてあげられなかった。交換条件はあったけれど。それは私の努力によるものではないし。何よりその条件すら私は満たすことが出来なかった」 一度区切って、姫神は噛み締めるように言う。 「だからせめて。例えあの人の残滓に過ぎないとしても。その心を救ってあげたかった。私を救おうとしてくれたあの人の心を。――嘘を吐いてでも」 姫神が、無表情のまま涙を一筋流した。 アウレオルスは、偽りの物語の中で消えていく。 その筋書きが例えハッピーエンドだとしても。 アウレオルスが思い残すことなく消えることが出来るとしても。 おそらくアウレオルスはバッドエンドであれ真実を知りたかった筈であり。 それを偽ったのは――紛れもなく姫神自身なのだ。 「…………姫神ちゃんは、優しい子ですね」 月詠が、姫神を抱きしめる。 ともすれば身長差から姫神の方が月詠に抱きついているようにも見えるが、月詠は構わず、静かに涙を流す姫神の背中を優しく叩く。 「今日は先生の家で一緒にご飯を食べましょう。行くところがないなら、行きたい所が見つかるまで、先生の家にいていいですから」 慈しむような月詠の言葉。 その母親のような優しさに触れて、 「…………ありがとう」 姫神は、少しだけ表情を綻ばせたのだった。 垣根帝督の十番勝負 第五戦 『姫神秋沙』 対戦結果――完勝(決まり手・ドンッ!「……黙れよ」) 次戦 対戦相手――『禁書目録』
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3508.html
【種別】 人名 【初出】 とある科学の超電磁砲 第八十一話 (存在自体は原作十五巻で言及) 【CV】 鈴代 紗弓 【概要】 【人物・性格】 【能力・スキル】 【作中での行動】 【口調】 【概要】 暗部組織『スクール』の初代スナイパーで、私立枝垂桜学園に通うお嬢様。 黒いツーサイドアップの髪に豊かな胸が特徴。 入鹿という妹がいる。 かつては妹の入鹿とともに『才人工房』内に設けられた 特別能力開発クラス『内部進化』に在籍しており、 そこでの実験で生き残った数少ない一人である。 【人物・性格】 根が真面目で任務を全てに優先してしまうために、友達を作る機会をことごとく逃している。 このため学校では親しい友人がおらず、自分が「ぼっち」であると自認している。 しかし実際は、学校等の周囲からはその優れた容姿とスタイル、表向きの庇護欲をそそる性格等から比較的好かれており、自分で自分を「ぼっち」だと思い込んでいるだけである模様。 これは『内部進化』の計画が頓挫した後、医者や、 何より信頼していた入鹿に構ってもらえなかったことがトラウマとなっているからである。 親しい間柄というものに飢えている反動なのか、 少しでも関わりを持った相手に対しては初対面でも親友認定するなど、人間関係に関して"重い"所があるようで、 獄彩海美をして「初対面の人間相手に全力で距離を遠ざけたのはあれが初めて」とまで言わしめている。 一方、『スクール』での教育係である誉望万化に対しては「ボッチにだって選択権はある」とナメてかかっている節がある所から、 誰でもいいという訳では無いようである。 誉望に対しては単行本12巻の表紙裏4コマでは彼を「パシリ」と言いかけたり、 服の下が全身ボディースーツで下着は見えないのを良い事に、自らスカートをめくってその反応を見てからかったりしている。 同級生などと話す時には緊張気味のお嬢様口調なのに対し、任務中は非情で残忍な面を色濃く見せる。 後任である砂皿緻密が標的を一撃で確実に仕留める完璧主義なスナイパーとするなら、 彼女は獲物を徐々に追い詰めていき、その悶え苦しむ様を見て悦びを見出すタイプ。 『スクール』の他のメンバーはこの趣向を「悪い癖」と評しており、誉望はその度に注意しているらしい。 【能力・スキル】 無能力者(レベル0)だが、狩猟民族が獲物を追跡するのに使う技術を習得しており、 気配を完全に消したり、獲物が残した痕跡から獲物の残滓などの情報を読み取ったりすることができる。 狙撃には服の中に分解して仕込んでいる狙撃銃を使用。 この狙撃銃は、腕の曲げ伸ばしで自在に分解・組み立てが可能で、 弾丸の発射には炭酸ガスの圧力を用いるためほぼ無音。弾丸は袖口から放たれ全く目立たないため高いステルス性を持つ。 仕込み銃は右腕が近距離戦用、左腕が中距離戦用。 彼女は本来狙撃手が苦手とする人混みをカモフラージュとして利用し、自身も紛れ込ませた上でその中に逃げ込んだ標的を射殺するのを得意とする。 周囲に溶け込む擬態力はすさまじく、視線・表情・身のこなしで完璧な自然体を装える。 また、スナイパーという肩書きに似合わず意外と武闘派。 不意に受けたフレンダのドロップキックを受けても持ち堪え、即座に反撃してみせたほど。 元々狙撃銃が近接戦用のため、万が一バレても高い対応力を発揮できる。 【作中での行動】 『ピンセット』に関わる情報を求めてインディアンポーカーを狩る過程でフレンダと佐天を襲撃。 足跡、歩幅、匂い、通信記録、現場の残骸などの「痕跡」からフレンダ・佐天の両名を追いつめた。 袖口に仕込んだ炭酸ガス銃による無音狙撃は暗部所属のフレンダでさえ割り出しに難儀するほどだった。 ところが、「フレンダが人形に模した爆弾を使うことを知っている」というのを逆手に取られ、 人混みの中でダミーの人形を大量に抱えた佐天にただ一人反応してしまい、正体を見破られたことで交戦となる。 意表を突かれた作戦に引っかかるも、一方的な狙撃でダメージを負っていたフレンダを徐々に圧倒していく。 しかし、辺り一面に仕掛けられた爆弾の一斉起爆により酸欠状態となり、酸素を求めて爆風で割れた窓まで駆け寄った。 今まさに息をしようと大きく口を開いた瞬間、窓際に先回りしていたフレンダから待っていましたとばかりにその口に爆弾を押し込まれ、 窓の外に蹴落とされた上に放り込まれたダミー人形と口内の爆弾を爆破され、口と鼻と片目を吹き飛ばされる。 垣根の発言から察するに、その場に誉望が駆け付けなければ命を落としていたらしい。 彼女が死亡したのはこの日の戦闘から少なくとも一週間以内。 『スクール』の不穏な動きを察知した『アイテム』により10月初旬に殺害されており、 彼女の代わりとして砂皿緻密が急遽雇われることとなった。 アニメ『禁書目録Ⅲ』4話では名前のみ登場した。この時に死亡日が10月6日であることも判明している。 【口調】 一人称は「わたくし」。 「~ですわ」など典型的なお嬢様口調を使い、同級生などと話す時には緊張気味の口調になる。 若干コミュ障気味で、1年半ぶりにクラスメイトから誘いを受けた際にはテンパっている。 また、スナイパーとしての任務中は「無駄です」という台詞がよく付く。 例)「わわわわわわたくしとでございますか?」「よよよよろこんで・・・」 「いいですね。その必死さ、素敵です。無駄ですけど」
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3759.html
【種別】 魔術概念 【元ネタ】 Magick(セレマ) - wikipedia アレイスター・クロウリーの〈テレマ〉における魔術体系。 クロウリーは奇術や古い〈アイオーン〉の魔術と区別するため、スペルに「k」を付け足した。 曰く「魔術(Magick)とは、〈意志〉によって変化する〈科学〉にして〈業〉である」。 ケネス・グラントによると、「k」はクロウリーの体系で重要な11を象徴する文字であり、 それは〈大いなる魔力〉の流れの性質を表現しているという。 【初出】 七巻 【解説】 magick系魔術と呼ばれるアレイスター=クロウリーの魔術体系。 クロウリーの弟子や後継者によるmagick系魔術の対策のために、クロウリー専門の調査機関も存在する。 七巻のステイル=マグヌスの発言から、 「(クロウリーは)娘のリリスが死んだときも顔色一つ変えずにmagickの理論構築を行っていた」 と後世に伝わっていた様子。 もっとも、新約十八巻で判明したクロウリーの原動力からして、これが正確な情報かは疑問が残る。 コロンゾンが使ったmagickであるフレイミングソード(燃える剣)は、 「クロウリーの対応表」における燃える剣の関門を元にしている。 新約二十二巻リバースのあとがきによれば、 アレイスターの死亡まではmagickが作中世界の基幹となる法則だったが、 新約二十二巻リバースを境に薔薇十字(ローゼンクロイツ)が大きく関わる別の法則が基幹となった。 【備考】 元ネタ的には薬物を併用した非日常的な魔術儀式のみならず、 〈意志〉のもとに行われた全ての意図的な行為もこの体系の魔術儀式となる。 後期GD系魔術師のダイアン・フォーチュンは、クロウリー系の11が〈クリフォト〉の数であり、 初級修練者にとっては陥りやすい「罠」であると警鐘を鳴らしている。
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/987.html
【種別】 組織名 【初出】 SS 【解説】 学園都市の暗部に存在する組織。 学園都市統括理事会の直属であり、表には出ない裏方の仕事を秘密裏に処理する。 所属メンバーは以下。 上司 電話の声 『グループ』に上から指示を出す人物。男性。 正規メンバー 土御門元春 科学と魔術の多角スパイ。4人のまとめ役のポジション。 一方通行 白髪赤目の学園都市第一位。超能力『一方通行』。 結標淡希 ショタコン疑惑のある女子高生。最強の空間系能力『座標移動』。 海原光貴(偽) 正体はアステカの魔術師。 能力者と魔術師の混成組織で、 メンバーも最強のレベル5、最高峰の空間移動能力者、科学と魔術に精通するスパイ、原典を二つ所有する魔術師など、純粋な暗部組織としてはもちろん、 科学と魔術の両サイドからみても高レベルな人員が揃っている。 グループは原則的に四人ワンセットで行動する事となっている。 他の暗部組織と違って明確なリーダーは存在しないが、土御門が陣頭指揮を執ることが比較的に多い。 また、グループをバックアップする為の下部組織が多数存在し、 装備品の開発・整備、人員の輸送、証拠隠滅等をこなす膨大な人員が雇われている。 集まる技術も最先端であり、 一方通行の演算補助デバイスの最大出力持続時間が15分から30分に延びたのも技術部による改良の結果。 グループの活動資金は一学区分の『警備員』並であり、それをフルに使い装備を開発しているらしい。 移動や輸送の際にはゴミ収集車に偽装した車両を使用。 お世辞にも構成員同士の仲は良いとは言えず、常にギスギスとした雰囲気が漂っている。 (イリーガルな暗部の組織では構成員は無駄な馴れ合いを嫌う者が多いが、グループは特に顕著である) ただしチームワークが無いわけではなく通常の仕事でも各々の役割を果たして仕事をこなしており、 また構成員全員が学園都市上層部に人質を取られているに等しい者であるため、構成員の大切な人に危機が迫った時のみ一致団結するのが暗黙の了解となっている。 そのような成り立ちから大切な人を上層部の魔の手から逃すことが最終目的となっており、対抗手段を練りながらその機会をうかがっている。 同程度の機密を持つ組織として、 『スクール』・『アイテム』・『メンバー』・『ブロック』が存在する。 十五巻での暗部闘争編では唯一構成員が全員生存した組織であり、 エピローグの題名からも暗部闘争編の最終的な勝者とされている。 第三次世界大戦後は活動休止状態。 なお、十五巻の台詞から「ロリコンシスコンショタコンストーカー同盟」というネタがあったりもするが、結標以外は事実無根である。 他の3人が特定の人物に対する感情を揶揄されたものであるのに対し、結標だけは『超電磁砲』にて明確にショタコンであることが描写されている。
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/908.html
【種別】 TS 【元ネタ】 火野神作 【解説】 TSスレで提案されたTS案から生み出された電波系少女。 元ネタと投下された初期イラストとのギャップで悶え苦しむ住民が続出。 SSで色が指定された事で、このキャラクターと上嬢さんだけは色が付いてたりするが、 ヒノタンの場合は、火野神作の特徴はあまり考慮されていない。 ・薄桃色の髪、髪型はツイン ・焦点の定まらないような虚ろな瞳で色は薄紫。 ・ナイフの形状がアーミーナイフ。SSだとS&W ・包帯と木の板も特徴。 ・体つきは華奢、スレンダーというか未発達。 ・カエル女医の人体実験の産物という設定になっている。
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3177.html
*アニメ新規情報のみの索引はこちら ア行 アイテム 一方通行(アクセラレータ) 一方通行(アクセラレータ)【能力名】 有冨春樹(ありとみはるき) 窒素装甲(オフェンスアーマー) カ行 学園都市研究発表会 金崎大学付属・筋ジストロフィー研究センター(かなさきだいがくふぞく・―) 缶ジュース 甘味栄華(かんみえいが) 絹旗最愛(きぬはたさいあい) きるぐまー 草壁優美(くさかべゆみ) 寿命中断(クリティカル) ケミカロイド計画 広域社会見学 サ行 桜井純(さくらいじゅん)(未編集) 妹達(シスターズ) ジャーニー スタディコーポレーション(未編集) タ行 滝壺理后(たきつぼりこう) 幽体拡散(ディフュージョンゴースト) 学習装置(テスタメント) オモチャの兵隊(トイソルジャー) ナ行 長点上機学園(ながてんじょうきがくえん) 二五〇年法 布束砥信(ぬのたばしのぶ) 体晶(たいしょう) ハ行 樋口製薬・第七薬学研究センター(ひぐちせいやく・だいななやくがくけんきゅうせんたー) 必殺猫爆弾 フェブリ 高電離気体(プラズマ) マ行 斑目健治(まだらめけんじ)(未編集) ミサカネットワーク ミサカ1号 ミサカ9982号 ミサカ10031号 ミサカ10032号(御坂妹) 水穂機構・病理解析研究所(みずほきこう・びょうりかいせきけんきゅうじょ) 麦野沈利(むぎのしずり) 鋼鉄破り(メタルイーターMX) 原子崩し(メルトダウナー) ラ行 ラ・マンチャ 欠陥電気(レディオノイズ) 量産型能力者計画(レディオノイズけいかく) 絶対能力進化(レベル6シフト) A~Z 能力追跡(AIMストーカー) 電子(NV)ゴーグル
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/72.html
7時00分。 上条当麻は強い日差しに目が覚めた。すっかり秋の季節になって少し肌寒い早朝。 「…ん、んーっ」 体を動かし、目をこすりながら起き上ろうとした。薄目で時計を確認する。 (…まだ七時じゃねーか。あと十五分くらいはいいだろー) 昨日のうちにインデックスの朝食のためのご飯の仕込みは終わっている。おかずも昨日の残りがある。冷凍食品の在庫も問題ない。 (むにゃむにゃ、あと十五分は寝かせてくださいましー) ん? 上条当麻は、ふと気がついた。 なにやら美味しそうなにおいが漂っている。コトコトと鍋の音が聞こえてくる。 (俺、タイマーをセットしておいたっけ?) そんなはずは無い。上条当麻は炊飯ジャーのタイマーしかセットしない。そう疑問に思い、布団を跳ね除けて起き上がろうとして――― 「へっ?」 上条はベッドから転げ落ちた。 「い、ぎゃあ!?」 盛大に頭から転げ落ちる上条。不器用な前転によって頭に激痛が走った。 「い、ってー。って、ベッド?え、え?ってここドコ!?」 上条は辺りを見回した。 ここは部屋の一室。クリーム色のカーテンから朝日が仕込んでいる。自分が寝ていたであろうベッドは全く見覚えがない。先程見たデジタル時計も自分が持っている時計とは違う。 自分の着ているパジャマらしきものも見覚えがない。床はフローリングだが、よく磨かれていて掃除が行き届いているのが分かる。ダークブラウンのクローゼットに張り付けられている等身大の鏡。ベッドの反対側にはちょっとばかり値が張りそうな机に最新式のパソコンまである。どこからどう見ても知らない場所だった。俺は寝ぼけているんじゃないのかと思って、 上条は自分の頬をつねってみた。 痛い。 (ちょ、ちょっと待て!俺は家に帰ってインデックスが寝静まってから米を研いで、朝食の確認を取って、自分の布団に潜ったはずですがー!?一体これはどうなってんだー?た、確かに昨日は自分の布団に…) と、朝から自分の置かれた状況に混乱しかけていたその時。 ガチャリとドアが開いた。 「とうま、大丈夫?さっき大きな音が聞こえたけど…」 そこには、白いエプロンを着た可愛らしい銀髪碧眼の少女が立っていた。 「へっ?」 インデックス、と呼ぼうとしたが上条当麻は声が出せなかった。今、上条の目の前に立っている少女はインデックスだろう。居候しているシスターの声を聞き間違えるはずがない。 しかし、とても奇妙だった。なぜインデックスはあの修道服を着ていないのか。なぜ普段着の上にエプロンを羽織っているのか。なぜそんなにインデックスは成長して可愛らしい女の子になっているのか。 「インデックス、だよな?」 そう呼ばれた少女は首をかしげた。 「とうま。まだ寝ぼけてるの?私以外誰がいるのよ。まあ、朝食はあと5分くらいで出来上がるから、さっさと顔でも洗ってきたら?」 「は、はあああああぁっ!?」 (さっき、何て言った?イ、インデックスが、あ、あさ、朝飯をぉ!?手伝いもまともしてくれないあのインデックスが朝飯を準備してるだとぉぉぉっ!?) 上条は両手でインデックスの肩をつかんだ。きゃっ、と可愛らしい声を出していたがそんなことまでに意識が届いていない。 「お、おいっ。インデックス!一体これはどうなってる?お前が朝食を作っただと?それもおかしいが、まずココは何処だ!?俺たち昨日は俺の家で寝てたよな?「明日は魚がいい」とか言って俺に三枚下ろしを頼んでたじゃねーか。しかも、何でそんなに背伸びてんだよ。一五〇センチぐらいだっただろ?御坂より背高くないか?お前」 次々と溢れる疑問の数々。おかしい、絶対おかしい。ドッキリにしては手が込みすぎている。一体何が起こった。そう言おうとして、上条当麻はふと我に返った。 「と、とうま。本当にどうしたの?とうまが言ってること全然分かんないよ。私はインデックスだし、ここはとうまの家だし、ご飯だって半年前から私が時々作ってるじゃない」 ―――――――な、んだって? インデックスは上条の顔をじろじろと見ながら少し困った顔をしていた。大きな碧眼の瞳。きれいな女の子の顔を間近で見ているだけで上条は変な気分になってきた。当麻はあわてて目をそらした。 「す、すまん。インデックス。ちょっと変な夢を見ててな。つ、つい」 「…とうまが寝ぼけてるのはいつものことだけど、今日は結構ひどいね。熱でもあるの?」 おでこに手をあててきた。上目づかいで顔をうかがう仕草といい、インデックスのエプロン姿といい、女の子特有の香りといい、かぁっと上条の顔が赤くなってしまう。 「だ、大丈夫ですって平熱平穏平凡な高校生上条当麻ですよどんなことが起ころうともびくともしないバッチグーでストロングな心の持ち主上条当麻です!」 「うん、いつものとうまだね」 にっこりほほ笑むエプロンシスター。上条は不覚にもドキッとしてしまった。 「じゃ、じゃあ、顔洗ってくるから」 「うん」 そう言ってインデックスは長い廊下を歩きだした。奥に居間があるのだろう。 「あ、あのインデックスさん?」 「なに?」 「洗面所ってどこにあるんだっけ?」 「…とうま、病院行ったほうがいいかも」 とある魔術の禁書目録 「並行世界(リアルワールド)」 さて、状況を確認しよう。 また世界が変わっている。『御使堕し』とはまた種類が違うようだが今の状況が異常なのは確かだ。現状を鑑みるに上条当麻は『未来』に来ているらしい。 朝から上条は驚きの連続だった。 鏡を見ると顔つきが少し刀夜に似てきており、身長が180cm程度もあった。髪は短く、ハードタイプのワックス(いつも使っているものより高価な品)を使ってツンツンした髪型にしてもしっくりこない。仕方なく当たり障りのない髪型に変えた。ここは3LDKの一室で最新式のTPSセキュリティになっているアパートであり、上条の家とはエコノミークラスとファーストクラスくらいの違いがある。居間に行くとインデックス作の完璧な和風朝食。これがまた美味かった。(上条感覚的に)高級感あるクローゼットを開けると自分の通っていた高校とは違う制服があった。学ランではなく、(上条感覚的に)これまた高級感溢れる黒で統一されたブレザー。袖にある金色のラインや左胸にあるエンブレムがなければスーツに見えそうな制服。そしてそのエンブレムはこの学園都市の生徒ならだれもが知っているマーク。 双頭の龍に一本の剣の刺繍。 「な、ななな長点上機学園!?」 流石の上条当麻も腰を抜かした。 無理はない。長点上機学園とは学園都市最高峰の難関校。大能力者(レベル4)以上の能力者、なおかつ軍事的分野に突出した能力を有していることが最低条件であり、その上いくつもの学園都市最難関の試験を突破するか、一定以上の地位を持つ有権者15名以上の推薦状が必要なのだ。ちなみに上条は『無能力者(レベル0)』。入学どころか受験条件すら満たしていない。 なぜ俺がこの制服を持っているのか。 俺は長点上機学園の生徒なのか。 はたまた、今の俺はコスプレに目覚めただけなのか。上条の疑問は増える一方だった。 二十分ほど部屋や洗濯機の中、ベランダと探し回ったが、いつもの学ランが何処にもない。仕方なく長点上機学園の制服を着ることにした。ワイシャツが背丈にピッタリである。本当に信じられないことだが今の俺は長点上機学園の生徒らしい。 「…ネクタイの締め方が分からねぇ」 ポケットに仕舞っておくことにした。 そんなこんなで上条はアパートから飛び出した。 場所は第7学区の高級街。学園寮では無いらしい。長点上機学園の場所は知っているので地理感覚に困ることはなさそうだ。 「って、困ることばっかりだよ!!」 不慣れな制服に戸惑いを覚えつつ、とりあえず学園を目指した。上条の高校を訪れようとしたがこの制服では場違いだ。怪しまれる。土御門の家に行って直接確かめるのが良いが、前回のように土御門がこの変化に巻き込まれていないという保証はどこにもない。上条の家は学生寮であり、旧型だがいっぱしの監視カメラとセキュリティはある。不用意に近づくのは危険極まりないだろう。そんなことを考えていると常盤台中学の校門に差し掛かっていた。視線を感じるなと思いつつ周りを見渡していると常盤台の生徒がチラチラと上条のほうを見ていた。 (…やっぱ目立つよなぁ。この制服) 長点上機学園。 五指の頂点に立つ学園。同じ五指に入る常盤台といえどブランドの点でも長点上機学園には翳る。そんなライバル校の生徒が登校時に名門学校の校門を横切るのだ。注目されて当然と言えば当然なのだが。 「………はぁ、なんか、不幸だー」 名門学校に入学して周囲からチヤホヤされる人たちが羨ましいと思ったことはあるが、実際にそうなってみるとそんなに良い気持はしない。むしろ鬱陶しく感じさえする。 トボトボと歩くこと数十分。長点上機学園の時計塔が見えてきた。周囲には登校している長点上機学園の生徒がちらほらと見え、生徒同士は視線が合う度に軽い会釈をしている。挙動不審だと怪しまれるので、周りの真似をしてみることにした。向かい側で歩いている長点上機学園の男子生徒と目があった。中学生と思われるがメガネを掛けていていかにも優等生らしい風体をしている。軽く顎を下げ、挨拶した。 ビクッ!と驚いたように上条を見てきた。そして体を震わせると何度もこっちに頭を下げ、走るように長点上機学園に向かっていった。 驚いたのは上条のほうだ。 (な、なんか間違ってたかー?俺。も、もしかしてネクタイしていないだけで変に思われたとか?) 後ろからゴロゴロと奇妙な音がした。 「すいませーん!道を開けてくださーい」 振り返ると人込みをかき分けながらローラーシューズで登校している女子生徒が見えた。 彼女も長点上機学園の生徒らしい。左胸に双頭の龍と一本の剣の刺繍がある。通り過ぎる直前、おはようと上条は声をかけた。彼女はゴーグル付きのヘルメットを着用していて、ゴーグルを上げながら挨拶をしようとしたところ 「あっ、おはようございまーす…って、えええええ!?ってて、きゃああっ!」 と、コントロールを失い盛大にズッコけた。 「あぶねぇ!」 上条は咄嗟に彼女の体を掴み、庇うように地面に叩きつけられた。 「うぐっ!?」 「あひゃ!」 背中に強い衝撃が走る。腹部に妙に柔らかい感触を感じるが、今はどうでもいい。 「…っ、大丈夫か。お前」 「…えぇ、あ、はい。すいませ…って、きゃああああああああっ!!」 「ど、どうかしたのか!?」 へたり込む少女は上条の顔を見るなり頬を真っ赤にすると、あわわわ、と慌てふためいて叫んだ。 「い、いいいいえ、か、かかかか上条様に、あ、朝からお逢いになれるだけでは無く、た、たた助けてもらえるだなんてぇぇ!」 ………………………………………………………………………………………………はい? 上条当麻は凍った。 (か、かかかみ、かみ、上条「様」!?上条「様」だとおおぉぉぉ!?) 上条は限界メーターが振り切れそうだった。 「か、上条様!上条当麻様、ですよね!?本っ当に申し訳ありませんでしたぁ!わた、私は高等部1年A組の羽平くるると申しますっ!ああっ、助けてもらってのお礼がまだでしたね!ありがとうございますぅ!こ、ここのお礼はまた後日改めてお伺いしてもよろしいでしょうか!?上条様とこうしてお話ができるだけでも感激なのに、身を呈してまでこんな私を助けてくださるなんてぇー、きょ、今日はとっても幸せな一日になりそうですぅ~」 周囲が引くほどのマシンガントークを発する女子を眺めながら、上条当麻は彼女を観察していた。 金髪でウエーブがかかったロングヘアーでインデックスと同じ透き通るような碧眼。西洋人風の女子でローラースケーターの格好がよく似合う生徒。なかなかの美少女だ。 うーむ、Aの75か76か。洗練された上条的触感(?)センサーで詳細なバスト値を測定していたところ 「あ、あのー上条様?」 「!…っは!?な、何でごさいましょう!私め上条当麻は貴女のバストがAの75か6だなんてちっとも思ってもいませんが!」 「……Aの75ですけど」 「って、答えるなよ!」 一体何なんだこの子。というかこの世界は一体どんな設定になっていやがる。俺が「様」扱いされるなんて夢にも思ったことはねぇぞ。ま、まさかこれは俺も知らない内なる願望が反映された世界だったりして―?!と、妄想に入り浸っていた。 「上条様!本当にありがとうございます!このお礼、必ずさせていただきますから!!」 ニコニコとした笑顔で大きく頭を下げると、鼻歌を歌いながら何度もこっちを振り向いて走り去っていった。 若干引きつった笑顔で手を振る上条。 「…何だった。一体」 嵐が過ぎ去ったように静かになる空気。 まあいい。と、学園に足を向けた瞬間――― 「とう、まっ!」 いきなり腕に絡みついてきた。それまたすんげー美少女が。 「どァあっ!?」 肘の辺りにマシュマロのような柔らかい感触を感じた。 「当麻はどーして私が目を離したすきにすぐ女の子と仲良くなるのかなぁー?」 (ちょっと待て!当麻?俺を呼び捨て?こいつ一体誰!?ダレ?ダレナノヨ!?) しかし、声は聞き覚えがある。腰まである茶色いロングヘアーに、上条よりも十センチほど低い背丈。ベージュ色のブレザーに紺色のプリーツスカートを穿いている。Cの85程度(上条的触感(?)センサーより測定)のバストを持つスタイル抜群の少女。以上の情報から上条の脳内ではじき出した結果、 「美、美琴?」 「四日ぶりに当麻と会えると思ってすっごく楽しみにしてたのに、これだもんなー。もう慣れたけどね。当麻の浮気性には」 と膨れた顔で頬をつついてきた。 …何なんだ。こいつのデレッぷりは。 「ねえねえ、当麻」 「な、何だよ」 上条の頬に、ふいに唇が触れた。 ――――――――え? 「ちょ、ちょちょちょちょっと、なにすんだお前!?」 周囲の視線が痛い。公衆の前でキスするとは。 「当麻が浮気するからでしょ!」 「はい!?」 御坂と付き合ってんの――!?Why!?What for!?How many(?)!? て、天変地異だ。これは俺の願望でも未来でもねえ――!御坂と俺が?御坂と俺が!?カレシカノジョのカンケイ?誰の思惑だ!?これはやり過ぎだろ! けどやばいヤバいヤバイヤヴァーイ!!このツンデレっぷり何か胸に迫るものがありますよー!? 「ねえ、当麻。来週の土曜、空いてるよね?」 「は?」 「は?じゃないわよ!先週から言ってたじゃない。もう忘れてるの!?」 「…あー、そうか、そうだったな!い、いや忘れてたわけじゃないぞ?ここんとこ定期試験のことで頭いっぱいだったから」 (ど、どうにかして話しを合わせておかないと…) 「……ふーん。私より定期試験の方が大事なんだ。当麻は」 「そんなことねぇよ!」 反射的に上条は叫んでしまった。しかし、反射的にそう言ってしまうくらい御坂が可愛かったのだから仕方がない。 御坂は上条が見たこともない柔らかい笑顔を作ると、ガシッと両腕で上条の首をつかんだ。美琴の顔が近い。吐息の温かさを感じるほどに。 「ねぇ、当麻。来週の土曜日…」 美琴の顔が赤い。というかめちゃくちゃ可愛い。やべぇ。俺どうかなっちまいそうだ。 小さい声で、そっと呟いた。 「いっぱいエッチしよ?」 チュッ 「じゃーねー、当麻ー。後で連絡するからー」 大きく手を振りながら去っていく御坂美琴。反射的に手をふる上条。 上条当麻はどうかなってしまった。
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3291.html
【種別】 駆動鎧? 【元ネタ】 英語表記は Anti-Art Attachment なお、"art"には「専門技術」「特殊な技巧」といった意味もある。 新約十八巻で「魔術を絶滅させる者の装備」という呼び方も提示された。 【初出】 新約十一巻 新約十三巻のサブタイトルでA.A.A.と初めて表記、新約十六巻以降は殆どの場合A.A.A.となっている。 なおデザインは葛西心氏による。 1. 【概要】 木原脳幹が頭の中で命令を出すだけで起動・操作できる兵器(群)。 レディリー=タングルロード、フロイライン=クロイトゥーネ、『ドラゴン』といった 理解できない領域の安全弁であり、撃滅を目的とするのが彼の役割。 脳幹は学園都市の学区一つ一つに専用の武器庫を構えており、 第二三学区には、学校の体育館よりはるかに大きな航空機の整備場に、いくつもの射出用コンテナと、それを牽引する大型トレーラーで空間が埋まっている。 第七学区の武器庫は業務用冷凍倉庫に偽装してあり、電力消費量が大きくとも誰も不思議がらない。 その兵装の内容は各種の刃物、銃弾、砲弾から始まり、はてはレーザービーム、液体窒素、殺人マイクロ波など。 デザインには脳幹の趣味性が色濃く反映されており、特にドリルとパイルバンカーに関しては採算度外視も厭わない。 また、葉巻を吸うためのアームまで取り付けてある。 アレイスターが現場での運用を一任できるほどの知識量の持ち主は、脳幹以外に存在しないらしい。 【正体・原理】 その最も本質的な機能は、アレイスターに接続し、その力を遠隔地で使用すること。 軍事技術のカタマリのように見えるが、実は医療技術の応用品であり、 肉体の延長という観点で言えば、駆動鎧よりもむしろサイボーグに近い。 しかし核となるブラックボックスの部分は完全に魔術。 まさに作品全体のキーワードである「科学と魔術が交差」を体現した一品と言える。 魔術に関する部分は一般的なシジルの応用で、 工学的には意味のない電子回路が通電すると、その際に発生する磁場が魔法陣を描き、 それがアンテナとなってアレイスターの肉体とリンクし、その力を遠隔転送する中継スポットとして機能する仕組み。 美琴と食蜂の手によって分解精査された際には、 内部の電子回路の一部が「思いっきりおまじないとかに出てきそうな形」をしていることが判明しており、おそらくこれが上記の「アンテナ」部分と思われる。 恋査の甲体を、いわば全能力者に対応したコピー機とすれば、こちらはアレイスターに特化適応したコピー機といえる。 瑠華によれば「エジソンの降霊装置」のようなもの。 あきらかに条約違反の兵器だが、アレイスターが気にする様子はない。 コア部分に魔術が使用されているため、能力者が使用すると拒絶反応によるダメージが発生する。 琉華に言わせるとA.A.A.の存在によって「世界は統一した理論で説明できてしまう」らしく、科学サイドや魔術サイドといった枠組みをぶっ壊す事が出来る代物。 そもそも世界を二分した元凶がアレイスターであり、A.A.A.の根底にもまたアレイスターが存在するため、 この時の琉華の考察は作品の根幹に限りなく近いものだったのだろう。 【作中での使用遍歴】 初登場は新約11巻。 蠢動俊三を始末すべく派遣された脳幹によって呼び出され、 セレストアクアリウムの建物諸共、蠢動を押し潰した。 その後、新約13巻で本来の用途のために起動された。 弱体化術式でパラメータを可殺状態に書き換えた上で魔神を全滅させるのが最優先目的であり、 実際にゾンビと僧正を撃破するという大戦果を挙げている。 だが、他の魔神が上里に狩られていったことが判明したため、 急に登場したイレギュラー要素である上里に標的を変更した。 実際に運用している脳幹の意思は決してブレていないものの、出力元であるアレイスターには『願望の重複』があるため、 理想送り(ワールドリジェクター)を前に無力化された。 12月5日の夜、木原唯一との戦闘で先述の冷凍倉庫に落下した美琴はA.A.A.の電子制御を乗っ取って砲撃を敢行。 唯一を撤退させることには成功したが、運用システムの中の魔術の情報に触れたため競合現象を起こし、多量の鼻血を出している。 アレイスターは美琴とA.A.A.の接触を新たな脅威と判断したらしく、唯一と結託して上里翔流共々排除する事を決定した。 『大熱波』とエレメントの出現に際しては、美琴なりのアレンジを加えた改良型を運用している。 常盤台中学敷地内に専用ハンガーを用意した美琴だったが、 囮である水晶の塔の破壊に出発した隙に唯一はハンガーを破壊。その余波で校舎は壊滅した。 戻ってきた美琴にも攻撃を加えたが、殺害までは至っていない。 オリジナルパーツは美琴によって第一一学区のコンテナの中に隠されており、上里を取り戻すための媒介にしようとする上条ら一行だったが、 A.A.A.の存在は科学と魔術の間に境界線が無いという実証でもあるので、短時間ではあるが琉華はその魅力に意識を塗りつぶされた。 新約15巻の終盤にてA.A.A.を装着した美琴が狂気に包まれたのも、境界線が無いという点を見るにA.A.A.装着時に未開の地ともいうべき魔術側に足を踏み入れたことで、魔術という新たな大地を見たこと。 「閉塞なんてどこにもない!『可能性』はどこにでもある!まだまだ、私の前にはまだまだ!!掴むべき手がかり、上るべき高み、目指すべき頂上がどこまでも広がっている!!」 という発言をしたことから、琉華同様にこの時の美琴の意識はA.A.A.そして魔術の魅力に塗りつぶされていたと推測できる。 またA.A.A.装着前に美琴自身の精神が上条当麻の力に成れないことへの苦悩から精神に異常をきたしていたこともあり、その影響をモロに受けた結果とも言える。 精神が正常であった琉華ですら、短時間ながらも呑み込まれてしまうことから、美琴の場合は当然の結果とも言える。 2. 【解説】 木原唯一が自身の体にエレメントを取り込んで武装した姿。チェーンソー表面に大きく「Dog's life」の文字が浮かび上がったデザイン。 エレメントの基本的な性質を受け継いでいるため、背景に擬態して透明化する事ができるが、 同時に、巨大な対特殊鋼チェーンソーであっても、幻想殺しで破壊できる。 唯一自身もオリジナルのA.A.A.を完全に理解できているわけではなく、その破壊力を再現したに過ぎないが、 彼女にとって重要なのはアレイスターの力が介在していない点。 3. 【解説】 暮亞がA.A.A.美琴アレンジのシルエットだけ再現したもの。 背中のジェットは植物性エタノールを燃焼させて再現している。 砲撃等の機能は無いが、高速で体当たりを仕掛ければそれなりの威力にはなる。